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ベートーヴェン/

1.交響曲第7盤イ長調Op.92
2.プロメテウスの創造物Op.43/序曲*


指揮/オットー・クレンペラー
演奏/フィルハーモニア管弦楽団

英EMI CDM7 69183 2

P:ウォルター・レッグ、ウォルター・イェルネック


E:クリストファー・パーカー

録音 1955/10/05-06,11/17
   19887/11/25*, 

キングスウェイ・ホール,ロンドン

演奏時間
交響曲第7番
第1楽章
12:44
第2楽章
9:27
第3楽章
8:19
第4楽章
7:54
tatal
38:24
プロメテウスの創造物
 
5:35
 この録音は正規のステレオ録音ですが、1988年まではほとんど陽の目を見ていませんでした。しかし、最近はこの録音の方が脚光を浴びているようで、2000年に発売された英EMIの全集ではそれまでの1960年録音に変わってこちらが採用されました。クレンペラーのベートーヴェンの交響曲第7番の録音は3種類あります。しかし、この1955年録音は別の録音も存在するのです。そこら辺の経緯は、

http://www.syuzo.com/klemperer/klemperer027.html

上記の方が詳しいので割愛しますが、要はバランス・エンジニアが全く別のものが存在するようです。で、この録音ですが英文のライナーを要約すると、これはEMIの実験的な録音であったことが書かれています。EMIとしての正規の発売はモノーラルで、ステレオではテープでのみ短期間発売されたと記されています。エンジニアのクリストファー・パーカーは意欲的にこのステレオの実験録音に臨んだけれどもプロデューサーのウォルター・レッゲはステレオ録音にはあまり興味を示さず、プレイバックも数分分しか聴かなかったことが記されています。ということで商品として完成したのはモノーラル盤の録音で、ステレオ録音はお蔵入りになってしまいました。しかし、時代は確実にステレオ録音時代へと移っていましたので、結局1957年から始まった交響曲全集の企画ではモノラール盤でのメイン・エンジニアであったダグラス・ラーターの元でもう一度ステレオ盤の録音が1960年になされたということです。

 さて、この3種類の正規の録音は以下のようなタイミングになっています。

録音年 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
1955年盤 12:44 9:27 8:19 7:54
1960年盤 14:01 10:00 8:39 8:38
1968年盤 13:54 10:35 9:11 8:54


 まあ、基本的に晩年になるほどテンポは遅くなっていっています。しかし、晩年の録音が一番良いのかというと、ことはそう簡単では無いようでデジタル・リマスタリングされたこの録音が登場すると、本家EMIはそれまでの1960年の録音を捨ててこの1955年版を全集に採用しました。それだけこの演奏が素晴らしいということなんでしょう。ちなみに国内盤の全集はCD化されても、1960年録音のままでした。

 ということで、この録音ですが、とても、テスト録音とは思われない素晴らしい音がします。もともとEMIの録音はあまり褒めないのですが、これはアナログ末期の録音として聴いても遜色ありません。まあ、テープヒスだけはしょうがありませんが、音楽に没頭すればマスキング効果で気になりません。

 クレンペラーはもともと、両翼配置でベートーヴェンを演奏していますので、そういう意味ではこの第7番はぴったりなのかもしれません。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの掛け合いがステレオ効果満点に響きます。この演奏を聴いて一番に感ずることは7番がこんなに巨大な交響曲だったのかということです。クレンペラーの棒で聴くと雄大でがっしりとした骨太の演奏で見違えるばかりの重厚さです。

 第2楽章などはアレグレットなのですがアンダンテと間違えんばかりの悠々たるテンポでエロイカの第2楽章話彷彿とさせる深淵さで、葬送行進曲を聴いているかのような厳粛さで響きます。この楽章のみ音場が変化していて、録音セッションが別の日であったことが分かります。弦5部が主体になるためか俄然弦が浮かび上がり、それだけにヴァイオリンの対比が鮮明に聴き分けることができます。心なし、ステレオブレゼンスも広がっている印象を受けます。途中でクレンペラーの唸りを聴くことができます。

 第3楽章もひたすら前に突き進んでいくエネルギーを感じる演奏で、スケルツォとは思えない雄郡な歩みで、無骨なまでの響きの固まりです。イッセルシュテットのウィーンフィルで聴く柔らかさはみじんもありません。音の一音一音がすべて意味のある響きで聴くものに迫ってきます。こちらも襟を正して聴かないと置いてけぼりを喰いそうです。

 第4楽章も圧倒的な迫力です。アレグロ・コンブリオのこの楽章もエロイカに匹敵するスケール感で迫ってきます。刻み付けるような弦のリズムに乗って木管や金管が炸裂します。推進力と言う点ではこの録音が一番あるのではないでしょうか。6分55秒過ぎからのコーダに突入していく部分は、このCDで聴く限り編集のまずさが見られましたが、全集盤はその辺りが改善されているようで不自然な音のつながりが無くなっています。ということは、全集盤に収録するに際して再度、リ・マスタリングが行われたようです。単発CDではクリストファー・パーカーがリ・マスタリングしていますが、全集盤では24-bit digital remasteringをしたエンジニアとしてアンドリー・ウォルター、シモン・ギブソン、アラン・ラムセイの3人の名前書きされています。

 ここに記した演奏の印象は単発CDを基本に書いていますが、全体の音のエネルギーは単発盤が、ステレオ感は全集盤が上回っています。聴いた印象はかなり違います。なを、55年盤の上記のタイミング表記は初出時のものを採用しています。全集盤はあまりにもタイミングの表記に違いがありすぎます。
単発されたこのCDには余白に「プロメテウスの創造物」序曲が収録されています。こちらは既存の発売音源を流用していますから珍しくはないのですが、これも、クリストファー・パーカーが担当したものとして選ばれたようです。5分ばかりの演奏ですが、ここでも重厚さと無骨さは健在で古き伝統のベートーヴェンを聴くことができます。

 最近は、「のだめカンタービレ」の影響でこの曲が盛んに演奏会で取り上げられるようになっていてますが、テレビの影響でちょっと軽めの演奏がもてはやされています。しかし、このクレンペラーのような重量感のある演奏は捨て難いものがあります。是非、一度耳にしてほしい演奏です。

                                                                    2007/01/11

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