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ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調「新世界から」Op.95
シューベルト/交響曲第5番ロ長調D485*

オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

EMI CDM 7 63869 2

P:ワルター・レッグ

E:ドーグラス・ラーター,アラン・スタッグ

録音1963/10/30-11/02,1963/05/13,15-16*

キングスウェイ・ホール,ロンドン

演奏時間
交響曲第9番
第1楽章
12:39
第2楽章
12:03
第3楽章
8:35
第4楽章
12:28
tatal
45:45
交響曲第5番
第1楽章
5:33
第2楽章
9:48
第3楽章
5:00
第4楽章
6:03
tatal
26:24
 この「新世界」は最初に聴いてはいけない演奏である。さりとて聞き逃してもいけない演奏である。最初に聴くならケルテスとかトスカニーニを聴くが一番だ。そしてある程度なじんでから聴くことをお薦めする。まあ、クレンペラーとしてはレパートリーとしても珍しい部類に入るが演奏も飛び抜けて即物的である。まず、第1楽章に12分以上の演奏時間を割いていること自体異常である。このテンポに最初つまずく人がいるのではないだろうか。そして各楽器がこれほど明瞭に鳴っているのも珍しい。即物的と書いたのはこの演奏は「新世界」の骨格がくっきりと浮かび上がっている演奏だからだ。金管楽器、木管楽器のそれぞれの音が実に良く聴き取れ、それは聞き慣れた主旋律を担当する楽器だけでなく内声部を受け持っている楽器の音まではっきり聞こえるのだ。極めつけは、第4楽章の最後で、オケが最強音で鳴り響いている時にフルートの音がはっきりと聴き取れるところである(それでいてティンバニの音は非常に控えめでケンペやカラヤンの演奏に比べると雲泥の差の音量であるのは意外である)。この曲の録音は同じワルター・レッグがプロデュースしたとは思えないほど併録のシューベルト比べてもある。なにかDECCAのフェイズ4に対抗してマルチトラック録音にチャレンジしたかのような音場になっている。弦楽器の両翼配置はクレンペラーの通常の仕様だが、ここではそれもくっきり分離しコントラバスが左から生々しく聞こえる様はまるでレントゲン写真を通して聴いている印象がある。
 また、ドヴォルザークの活躍した世代はブラームスとほぼ重なる。そういう視点から聴くと、この曲がブラームスの交響曲と同系列に並ぶしその延長上で演奏されたとすれば納得のいく解釈である。とくに第1楽章と第4楽章はそういう雰囲気を特に感じることができる。第4楽章の木管のトリル弦のユニゾンなどの節回しはブラームス流だし本当に新しい発見ばかりである。まさに「新世界」である。多分演奏者について何も知らされず初めてこの曲を聴いたらストコフスキーの演奏だといわれても納得してしまうだろう。それだけ、通常のクレンペラーの演奏とはかけ離れた位置にあるディスクだ。
 併録のシューベルトの交響曲第5番は「新世界」の半年前の録音であるがこちらはきわめて真っ当な演奏であり録音である。従来型のフル編成のオケによる録音だが見通しの良い録音で特に木管がくっきりと浮き出た録音もあって若きシューベルトの初々しさが感じ取られる。これはベーム、ウィーンフィルによる演奏と一脈通じるものがあり、構成ががっちりしている。ケルテスなどの演奏に比べるとやや腰が重いと感じるところもあるがそれがまたこの曲に渋さを持たせていい味になっているように思う。
 この演奏では第1楽章の繰り返しが省略されているし、第2楽章でも冒頭が一部繰り返しを省略している。それでも曲としての充実感は全然損なわれてはいない。全体のテンポも「新世界」のように遅くはなく、さりとて快速でもなく中庸で安心して聴いていられる。世間の評価はあまり芳しくないが聴き込むほどに味わいのある演奏となっている。1つ言えるのはどうもこのカップリングはいまいちセンスがない。まあ、さいきん、国内盤で「新世界」だけ独立して再発された(TOCE13011)ようでさの憂いは無くなったもののCPは低くなってしまった。
                                                            2006/01/01

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